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2010年 02月 24日
1.
民主党政権内で、4月からの「就学支援金」支給対象から朝鮮学校を外そうという動きが活発化している。第一報を聞いたのが、「イデオロギーの終焉(上)」で、安倍政権と鳩山政権の連続性を指摘した直後だっただけに、その符合に驚いた。 今回の差別措置案については、kscykscy氏がブログ「日朝国交「正常化」と植民地支配責任」で明快かつ明晰に論じておられるので、未読の方はそちらを是非ご参照いただきたい。 「「公的確認」の論理と教育「内容」の問題――朝鮮学校と高校「無償化」問題②」 http://kscykscy.exblog.jp/12886916/ それにしても、下の産経の社説を読むと、その余りのご都合主義とむき出しの排外主義ぶりにうんざりさせられる。 「【主張】朝鮮学校 無償化除外へ知恵を絞れ」 http://sankei.jp.msn.com/life/education/100223/edc1002230302000-n1.htm この社説がすごいのは、今回採られる可能性が高い差別措置について、文科省は「外交問題を考慮しない」などと建前を整えようと(整えながら行なおうと)しているにもかかわらず 、産経はそのような建前について、「それは建前です」とはっきり言ってしまっている点である。「知恵を絞れ」と言っているのだから。外交上の「国益」の観点から、ましてや戦時でもなく平時に、生徒の大半が相手国の国民であるという理由だけから差別措置を採るということは、法治国家である以上さすがにできない。だから、それを法形式上可能にするように「知恵を絞れ」というのである。そして、確かに文科省や平野官房長官らは「知恵を絞」って、「無償化にふさわしいカリキュラム(教育課程)かも含め、文部科学省がチェックしなければならない」などという建前を打ち出してきているわけだ。産経の主張は、今回採られようとしている措置がどれほど差別的かつ排外主義的なものであるかを浮き彫りにしている。 2. 産経の主張は、こうした差別措置を積極的に肯定する「国民感情」に政権が応えるよう訴えている。 そして、このような「国民感情」におもねり、それを助長するための発言を、「論壇」で最も精力的に行なってきたのが佐藤優であることは、私が再三指摘している通りである。以前書いた記事「佐藤優、自分は朝鮮総連に対して差別的な扱いなどしていない」で詳しく書いたが、以下、佐藤の発言を改めて引用しておこう。 まず佐藤は、「「北朝鮮を叩き潰すという前提でマスタープランを組み立てよ」という国家意思が明確に示された場合の筆者の腹案」として、以下のように述べている(強調は引用者、以下同じ)。 「「平壌宣言」の廃棄だけでは、日本国内から民間のカネや物が北朝鮮に流れることを阻止できない。そこで警察庁、国税庁、検察庁が一体となって国策捜査を展開するのだ。日本は法治国家である。従って、違法な捜査はしない。しかし、これまでは「お目こぼし」の範囲内にあった違反行為でも徹底的に摘発し、逮捕、長期勾留、厳罰、マスコミに対する情報のリークで、北朝鮮とビジネスをすることで利益を得ている者を、朝鮮籍、韓国籍をもつ在日外国人であるか、帰化日本人であるか、生まれたときからの日本人であるか、中国人、アメリカ人などのその他の外国人であるかを一切問わず、徹底的に叩き潰すことである。(中略) 実は北朝鮮はこの国策捜査のシナリオを何よりも恐れている。北朝鮮政府の事実上の公式ウェブサイト「ネナラ(朝鮮語で「わが国」の意)・朝鮮民主主義人民共和国」が2006年3月28日付の北朝鮮外務省スポークスマン声明を掲載しているが、ここに大きなヒントが隠れている。(中略) 「敵が嫌がることを率先して行う」というのはインテリジェンス工作の定石だ。北朝鮮政府が重要なシグナルを出しているのだから、それを正確に読み取って、「現行法の厳格な適用」という国策捜査を用いて、北朝鮮に流れるカネ、物の元栓を完全に閉めるのだ。日本国家の暴力性を最大限に発揮した国策捜査は経済制裁よりも効果がある。」(佐藤優「対北朝鮮外交のプランを立てよと命じられたら」(『別冊正論』Extra.02所収、2006年7月刊) この「腹案」は、一応、仮定上のものということになっているが、佐藤の別の文章である「「ネナラ」、北朝鮮からのシグナル」(『地球を斬る』角川学芸出版刊、66頁。初出はインターネットサイト「フジサンケイビジネスアイ」「北朝鮮からのシグナル」2006年4月13日付)では、仮定上のものだったはずの主張が、以下のように、佐藤の自論として主張されている。 「 なぜ北朝鮮はこのタイミングでシグナルを送ってきたのか。このヒントは「ネナラ」に掲載された3月28日の北朝鮮外務省スポークスマンの声明にある。 〈日本当局は3月23日、警視庁公安部の主導のもとに数十人の大阪府警察機動隊を動員して、在日本朝鮮人大阪府商工会とわが同胞が経営する商店や家宅など六ヵ所に対する強制捜索を強行するなど、総聯の弾圧に平然と国家権力を投入した。のみならず、日本当局はすでに総聯の中央会館や東京都本部の会館、出版会館に対する固定資産税減免措置を取り消して差押処分を下し、ついで「現行法の厳格な適用」という美名の下に、全国のすべての総聯関連施設に対する地方自治体の固定資産税減免措置を完全になくそうとするなど、総聯を崩壊させるための財政的圧迫をさらに強めている〉 日本政府が朝鮮総連の経済活動に対し「現行法の厳格な適用」で圧力を加えたことに北朝鮮が逆ギレして悲鳴をあげたのだ。「敵の嫌がることを進んでやる」のはインテリジェンス工作の定石だ。 政府が「現行法の厳格な適用」により北朝鮮ビジネスで利益を得ている勢力を牽制(けんせい)することが拉致問題解決のための環境を整える。」 すなわち、ここで佐藤は、上述の「対北朝鮮外交のプランを立てよと命じられたら」と同じく、「2006年3月28日付の北朝鮮外務省スポークスマン声明」から引用した上で、2006年3月23日の在日本朝鮮人大阪府商工会等への警視庁による強制捜索、および「現行法の厳格な適用」という名目の下での、「全国のすべての総聯関連施設に対する地方自治体の固定資産税減免措置」の廃止について、「拉致問題解決のための環境を整える」と肯定的な見解を示している。当然、「対北朝鮮外交のプランを立てよと命じられたら」で記されていた、「日本国家の暴力性を最大限に発揮した国策捜査」をも佐藤は肯定的であると見るべきだろうし、実際、後者(時系列的にはこちらの方が先に発表されている)の読者は、仮定と断った上であっても、佐藤がこの「国策捜査」に肯定的であると見るだろう。 これは未確認だが(雑誌の実物が国会図書館にない。持っている方はご一報いただければ幸いです)、東京アウトローズWEB速報版によれば、佐藤は以下のような発言も行っている。 「たとえば、『国家の罠』という本で、私は『国策捜査』という言葉を使ったけれども、じつは『国策捜査がいけない』とは一言も書いていません」、「国策捜査が必要な時は、否応なく来ます。たとえば北朝鮮と対峙する場合、これは当然、国策捜査で行くべきでしょう。緒方元公安調査庁長官の事件でも、結局は朝鮮総連が被害者になるような筋立てになってしまっていますが、そんな体たらくでどうするんだといいたいですよね。ああいう事件は当然、政治的に利用すべきですし、ここはしっかり国策捜査すべき局面でしょう。総連に対して圧力をかければ、拉致問題を巡る交渉も有利になるからです。それは先の段階で総連に対する圧力を緩めるということが、外交カードになるからです」 また、これは「<佐藤優現象>批判」でも引用したが、朝鮮総連系の機関・民族学校への強制捜索に際して用いられた「現行法の厳格な適用」なる概念に関して、佐藤は左派雑誌の『情況』で、以下のように語っている。 「法の適正執行なんていうのはね、この概念ができるうえで私が貢献したという説があるんです。『別冊正論』や『SAPIO』あたりで、国策捜査はそういうことのために使うんだと書きましたからね。」(佐藤優・和田春樹「対談 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)問題をどう見るか」『情況』2007年1・2月号) もちろんここで言われている「法の適性執行」とは、「現行法の厳格な適用」と同義である。対談相手の和田は、ここでは佐藤の発言を黙認しているから、朝鮮総連系の機関・民族学校への「国策捜査」を肯定する<空気>は、『情況』という左派雑誌を通じても醸成されたと言える。 以上の佐藤の発言例はあくまでも私が認識したものであって、この他にも、私の把握していない場所で、佐藤が同様の主張を展開している可能性は高いだろう。周知のように、佐藤は極めて多くの媒体や講演で発言を行っているから、その社会的影響力も加味して考えれば、このような、「拉致問題」の解決、「国益」のためには在日朝鮮人に対して差別的に扱ってもよいという論理の鼓吹において、近年、佐藤は最も貢献した人物だと言えると思われる。 3. そして、佐藤優の論壇席巻という<佐藤優現象>を最も熱心に推進してきた出版社の一つが、岩波書店であることは改めて言うまでもない。岩波書店学術一般書編集部編集長の馬場公彦の、「現状が佐藤さんの見立て通りに進み、他社の編集者と意見交換するなかで、佐藤さんへの信頼感が育まれる。こうして出版社のカラーや論壇の左右を超えて小さなリスクの共同体が生まれ、編集業を通しての現状打破への心意気が育まれる。その種火はジャーナリズムにひろがり、新聞の社会面を中心に、従来型の検察や官邸主導ではない記者独自の調査報道が始まる。」「この四者(注・権力―民衆―メディア―学術)を巻き込んだ佐藤劇場が論壇に新風を吹き込み、化学反応を起こしつつ対抗的世論の公共圏を形成していく。」などという発言が、佐藤を積極的に起用する行為が、岩波書店編集者たちによって<運動>として取り組まれていることをよく示している。以前にも指摘したが、岡本厚『世界』編集長が、佐藤を韓国の有力者たちに売り込んでいる、と見なさざるを得ない行動を行っているのも、同様の文脈にあると思われる。 昨年10月1日に発表された「<佐藤優現象>に対抗する共同声明」は、「『世界』『週刊金曜日』その他の「人権」や「平和」を標榜するメディア」(「当該メディア」)について、以下のように指摘している。 「佐藤氏は、言論への暴力による威圧を容認し、イスラエルの侵略・抑圧行為や在日朝鮮人の民族団体への政治的弾圧を擁護する等の、決して許容できない発言を、数多くの雑誌・著作物で行っています。当該メディアが佐藤氏を積極的に誌面等で起用することは、人権や平和に対する脅威と言わざるを得ない佐藤氏の発言に対する読者の違和感、抵抗感を弱める効果をもつことは明らかです。」 今回の民主党政権内で浮上している朝鮮学校への差別措置が、「拉致問題」の解決、「国益」のためには在日朝鮮人に対して差別的に扱ってもよいという「国民感情」を背景としてなされているのは明らかだが、そのような「国民感情」の醸成は、この共同声明で指摘されているように、<佐藤優現象>によって大きく助長されたと思われる。逆に言えば、<佐藤優現象>が政治的に可視化されたものが、今回の差別措置案である。 『世界』最新号(2010年3月号。2月8日発売)には、佐藤優が、歳川隆雄との対談相手として登場している。以前にも指摘したように、『世界』誌上での佐藤と大田昌秀との対談は、最新号においても休載中のままだが(わざわざ「休載」と告知されている)、ついに約半年振りに、佐藤が誌面に復活したわけである。民主党政権内における差別措置案の浮上と時期的にほぼ並行していることは、なかなか興味深い。 4. 仮にこの差別措置案が政権によって採用された場合、『世界』や『金曜日』など、<佐藤優現象>を推進するリベラル・左派メディアは、自分たちのことを棚にあげ、今回の差別措置案を批判するかもしれない。間違った論拠であるとはいえ(kscykscy氏の最新記事参照)、このあからさまな差別に対しては、朝日新聞ですら批判するくらいであるから。 これまでの論調からして、その場合、これらのメディアの論調は「朝鮮学校の件は確かに問題だが、「高校無償化」政策が実現したことは歓迎」といったものになるはずである。「レイシズムには反対だが、総論としては賛成」というものだ。 だが、このような主張こそが典型的なレイシズムである。以前指摘したが、日本社会の健全さを示す上で在日朝鮮人への差別があるかないかは関係ないとする山口二郎のケースと同じだ。そこにおいては、在日朝鮮人の存在の大きさが極小化されている。こうした主張は、「高校無償化は、朝鮮総連にカネが流れるから反対」といった主張よりも、言葉の正しい意味においてよりレイシスト的・排外主義的であり、在日朝鮮人(もちろん韓国国籍も含まれる)にとって脅威であると言える。 「就学支援金」支給対象から朝鮮学校を外そうという動きが、差別的であることは明らかだが、これは、<佐藤優現象>と同質のものであり、またその帰結でもある。そして、リベラル・左派メディアに、仮に朝鮮学校排除に対してそれなりに真っ当な批判が掲載されるとしても、当該メディア全体の枠組みとしては、レイシスト的な、排外主義的なものにならざるを得ないだろう。リベラル・左派メディアのそのようなものへの変質は、既に終わっている。 これは在特会問題とも通じるが、朝鮮学校排除案の成立阻止が最優先であることはもちろんであるが、それとともに、朝鮮学校排除案を成り立たせているような土壌――その象徴が<佐藤優現象>である――自体が問われなければならないだろう。今回の排除案こそが、佐藤が主張していたことの現実化であり、<佐藤優現象>の政治的可視化なのであって、そのような姿勢で今後の展開を見ていく必要があると思う。
by kollwitz2000
| 2010-02-24 00:00
| 佐藤優・<佐藤優現象>
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