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2006年 12月 11日
http://www.sanko-sha.com/sankosha/editorial/books/items/167-1.html
まだ出たばかりの新刊。大傑作である。喫茶店で読み始めたのだが、あまりの面白さに一気に全部読んでしまった。近年、これだけ熱中して読んだ本はないと思う。 といっても、これは「謎解き本」ではない。上のサイトにあるので紹介は省くが、同時代の文脈からの『闇の奥』(1899年)読解とその解釈史の検討を通じて、『闇の奥』を「帝国主義・植民地主義批判の小説」とする評価がいかに欺瞞的であるか、『闇の奥』の時代の帝国主義の搾取システムや思考様式がいかに現在にまで貫徹しているかを明らかにする。アレントも徹底的に批判され、サイードですら、該博な知識と徹底した明晰さに基づいた著者の批判からは逃れられない。ちまたの「ポストコロニアル批評」を読むのが苦痛になりそうなほどの切れ味を持った批評の本であり、かつわれわれの通俗的なアフリカ観、ヨーロッパ観、世界史及び現代世界への見方を変える本である。『西欧人の眼に』『ロード・ジム』など、コンラッドの小説の愛好家である私にはつらい本でもあったが、自分の認識の浅さを思い知らされた。 特に、19世紀末のコンゴで、ベルギー国王レオポルド2世(が作り上げたシステム)によって行なわれた数百万人を超える規模の住民虐殺(著者は、「この驚くべき大量虐殺をアフリカ人以外の人間のほとんどが知らないことこそ、私には、もっとも異様なことに思われる」という)や、コンゴの統治の実態を暴こうとするモレル、ケースメントと、コンラッドとの関係の下りは、文字通り無我夢中で読んだ。 本書で紹介される在コンゴ英国領事ケースメント(1864~1916)の生涯は鮮烈だ。彼は、イギリス外務省の指令でコンゴ内陸を調査し、コンゴ国内での白人による余りにも多くの残虐行為を詳細に報告する(1904年)。「コンゴの森の孤独の中で私はレオポルド2世を見いだしたが、また、のっぴきならぬアイルランド人としての私自身をも見いだした」「私がアイルランド人であったからこそ、コンゴで機能している悪行のシステムの全体像を把握することができた」と友人宛の書簡で書いた彼は、その後、アイルランド独立運動に邁進し、第一次世界大戦ではドイツを足場にして独立運動に従事し、1916年にイギリス軍に捕らえられて処刑される。 また、ケースメントと協力してコンゴの実情を暴露したモレル(1873~1924)の生涯も非常に興味深かった。詳しくは本書に譲るが、著者が絶賛する『黒人の重荷』(1920年)は是非読みたい。日本語訳は出ないものか。その中での次の一節は特に印象的だった。 「コンゴをずたずたにし、廃墟と化した政策と全く同一の政策、原理を、イギリスの熱帯アフリカ植民地経営に適用しようとする動きが現在進行中である。その背後にある動機も全く同一であり、それは抜け目なく巧みに工作され、詭弁を操って力説され、新しい装いをつけて世に披露されている。これは大変な脅威である。その動きは大富裕階級によって支持され、さらにはまた、買収されてしまったか、あるいは、せめてそう信じたいのだが、無知の故に方途を見失った民主的勢力からの支持もうけているからである」 左派が植民地主義を支持していたことと、それへのモレルの苛立ちと絶望が鮮明に表れている。無論こうした現象は当時のイギリスだけではあるまい。 印象深かった点を挙げ出すときりがないのでやめるが、とにかく、少なくとも『闇の奥』を読んだ人は必読であり、読んでいない人も、『闇の奥』を読み(著者による新訳が出ているのでこれで読むべきだろう。私もこちらは未読なので、是非読みたい)、その上で本書を読むべきである。それくらい薦める。『季刊前夜』読者には特に薦める。 なんと、著者の藤永茂さん(1926年生まれ!)は、ブログをしておられる。まだちゃんと読めていないが、非常に興味深い内容のようだ。
by kollwitz2000
| 2006-12-11 02:45
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